5年ぶりに同人誌を買った

マリア様がみてる、という名前の小説がある。

第一巻の発売日が20年前で、自分の思春期はマリみてと共にあった。

中でも、作中に登場する二条乃梨子という人物が好きだった。

頭がどうにかなりそうなくらい好きだった。

 

時間は流れ、社会に出る。

22歳で入社した会社を1年足らずで退職し、薬を飲みながら部屋の中で何もしない1年が過ぎた。よく乃梨子の事を思い出し、妄想したが、日常に現実感が無くなり、よく分からなくなっていった。

中学生時代からの趣味だった百合というジャンルが、どうでもよくなった。

百合を筆頭とした、あらゆる趣味がこぼれ落ちていって、抜け殻になった。

 

24歳、貯金が尽きた。

折しも世間はリーマンショックで、正社員の求人は絶望的に壊滅的だった。

睡眠薬で無理やり眠り、抗鬱剤で体を奮い立たせて採用面接に挑み続け、内定を得た。

倍率は20倍程度だったそうだが、決め手は「前の職場で悲惨な目にあった人から優先的に選んだ」という事だった。少し笑った。

これ以上、親元で自身の右往左往を見せつける事に抵抗を感じたので、家を出た。

 

そこから8年が経過した。

乃梨子の事を、あまり思い出さなくなった。

いっぱい働いたので、社内のポジションが上がり、比例して給料も上がった。

一日も休まず、遅刻もせず、常に会社から徒歩圏内で通勤し続けた。

出勤先のオフィスが移動した時は、自分も引っ越した。

引っ越すたびに、中学生時代から集めていた百合の書籍を捨て去った。

マリみてと、その他数冊の本が残った。

 

前置きが長くなった。

2018年9月17日。

川崎市産業振興会館にて、マリア様がみてるオンリーの同人誌即売会が開催された。

このイベントで、ひとつのサークルが活動を終える。

ラボ・スクラップ」さん。

学生時代、マリみて関連のサイトを巡回していた中で、一番好きだったサイト。

志摩子さんと乃梨子大好きの人。10年以上前、親から与えられた一人部屋でGアリを読んで一人悶々と眠れない夜を過ごした、紛れもなく自分にとって思春期の断片。

川崎市産業振興会館、神奈川県川崎市幸区堀川町。

住所の半分以上が、自宅アパートと一致した。

近い。これは縁だ。会場に行こうと思った。

 

入り口で、1000円のパンフレットの購入を求められる。

そういえば、同人誌即売会のイベントはパンフレットが入場券代わりだった。この感覚がめちゃくちゃに懐かしい。

ラボ・スクラップさんのスペースは入り口から目の前だった。

パンフレットを購入し、ラボ・スクラップさんの最後の同人誌「永遠のつくりかた」を買って、会場をあとにした。

 

今日の家事を全て済ませ、砂糖を目一杯入れたコーヒーを飲みながら読む。

それは志摩子さんと乃梨子の未来のお話。

高校を卒業し、社会に出て、時間を重ねた二人のお話。

思春期のような熱っぽさや傷つきやすさは無いけど、やっぱりどこか青い。

凄く久しぶりに、乃梨子に会ったような気持ちになった。

この二人の未来を想像した事は何度もあったけど、今回の同人誌を読んで腹にストンと、腑に落ちていくような感覚になった。

この二人の未来について「そうあれかし」と声に出したくなるような、そんな終わり方だった。

 

自分はマリア様がみてるという作品に対して、

思春期の中心を射抜いっていった志摩子さんと乃梨子の二人について、

自分の何%かを構成していた乃梨子について、

どこか置き去りにしたまま何年も仕事を中心とした一人きりの日々を過ごしてきたけど、今日この時を持って一区切りできた気がする。

 

恐らく届かないと思うし、この文章が迷惑になってしまったら申し訳ないと思いますが、衝動的にこの文章を書かずにいられなかった。

ラボ・スクラップさん、ありがとうございました。